2026年3月31日に政治学者 / 安部フェローシップ・ネットワークであるカトヤ・バーンズ博士 が、国際交流基金ニューヨーク(The Japan Foundation New York)および社会科学研究評議会(Social Science Research Council: SSRC)の全面的な協力を獲得し、開催されたプロジェXとです。弊団体アニマルウェルフェア・コーポレートパートナーズ(AWCP)は、共同グループとして当日の午前にはNPOとの勉強会と、午後のウェビナー「鳥インフルエンザと食料システム(AVIAN INFLUENZA AND FOOD SYSTEMS)」に協力をさせていただきました。(Abe Fellowship Network Research Grant 2025

まず午前中は日本でアニマルウェルフェアやアニマルアドボカシの活動をしているNGOs, NPOsのみなさんと集まって、HPAIのウィルスについて、日本での現状を共有し、どのような活動がアニマルウェルフェアを向上するのに最適かということを議論し学びました。


午後の企業様や業界の皆様をお招きしたウェビナーでは、日本、北米、欧州における高病原性鳥インフルエンザ(以後:HPAI)の感染動態と、それが食料ビジネスに及ぼす影響を多角的に分析することを目的としました。特に、各地域の政策対応や最新の研究成果を比較し、商業養鶏における感染リスクの低減と、企業のサプライチェーンの回復力を高めるための具体的な対策について、専門家による深い議論が行われました。

現在、日本におけるHPAIの被害は、食料システム全体を揺るがす深刻な事態となっています。ウェビナーで提供されたデータは、従来の対応策だけでは限界があることを明確に示しています。

HPAIの死亡率は極めて高いものです。2024年10月から2025年4月にかけての殺処分数は1,700万羽に達し、過去最高を更新しました。鶏が感染した場合の死亡率は90~100%に達し、通常48時間以内に死に至ります。一度感染が確認されれば、農場内の全羽を殺処分せざるを得ず、これが供給網へネガティブな影響を与えます。

殺処分対応のためには自衛隊が派遣されることがあります。亜Japanをた殺処分された鳥を適切に埋却するための用地が不足するという、公衆衛生上の危機にもさらされています。

感染の拡大が哺乳類へ

米国では乳牛への感染拡大により酪農部門へも被害が波及しています。ヒトへの感染例は稀(2003年〜2025年4月で973件)ですが、世界保健機関(WHO)が記録した致死率は約50%と極めて高く、これはエボラ出血熱に匹敵します。企業にとってこの問題は、単なる衛生管理を超えた、ESG(環境・社会・ガバナンス)における重大な経営リスクおよび公衆衛生上の懸念事項として捉える必要があります。

今回のウェビナーでは、学術、法、実務の各分野を代表する専門家が、持続可能な食料システムへの転換に向けた知見を共有しました。

カトヤ・バーンズ博士(サチューセッツ工科大学政治学部博士号, 政治学者 / 安部フェローシップ・ネットワーク) 政治学的な見地から、鳥インフルエンザが世界の食料部門に与える影響を概説し、日本、北米、欧州の3地域における発生状況と政策対応の比較分析を提示しました。また今回の安部フェローシップ・ネットワークのプロジェクトリーダーで、本プログラムの報告レポートを最終的に監修いたします。

イザベラ・ニルソン氏(Legal Impact for Chickens ハーバード・ロー・スクール出身で、”Equal Justice Works”フェローとして活動する弁護士の視点から、既存の虐待防止法の執行を通じたアニマルウェルフェアの向上と、伝染性疾患に関連する法的規制について解説しました。なお、同氏が所属するLegal Impact for Chickens(LIC)は、鶏やその他の家畜を守るために法執行を行う非営利の訴訟団体です。

ドナルド・ユーバンク氏(Read the Air / ESG, Farming, Food and Animal Welfare Roundtable Japan ビジネスの持続可能性とESG投資の観点から、アニマルウェルフェアが企業ガバナンスにおいて不可欠な要素であることを強調しました。

上原まほ氏(AWCP) 日本国内の発生状況を報告。現在の危機を脱するための解決策として、従来の過密飼育型から「ケージフリー(平飼い・放牧)」アプローチへの転換がいかに重要であるかを論じました。

カナダや欧州連合(EU)においては、鳥インフルエンザの発生後も食料システムへの影響が限定的であり、卵の価格も相対的に安定しています。この格差を生んでいる要因として、欧州等における強力な政策対応や、科学的根拠に基づいた「商業養鶏における感染リスク低減戦略」の実施が挙げられます。

特に議論の焦点となったのは、ケージフリーシステムがもたらす市場のレジリエンスです。ケージフリーへの移行は、単なる動物福祉の向上に留まらず、バイオセキュリティの強化やサプライチェーンの安定化に寄与する可能性が示唆されました。これらの成功事例から得られる教訓は、日本企業が将来の感染症拡大に備え、より強靭な食料システムを構築するための重要な指針となります。

ウェビナーの結果とQ&Aセッションの深化

本イベントには、企業のサステナビリティ担当者や研究者など30名が参加しました。後半30分間のQ&Aセッションでは、活発な議論が展開されました。

参加者からは、ケージ飼育とケージフリー飼育では罹患率はどう違うのか、また放牧だと罹患率が低いのかなど実務的な質問が相次ぎました。

今後の議論、考察する点

農水省のHPAI対策ではハード面(外からのウィルス侵攻を防ぐなど)は積極的に推進している一方、HPAI対策の一つに確実になる飼育羽数を減らずという点には明確に、また積極的に言及をしていません。HPAIは今や工場的畜産が温床とも言われ、風土病にもなっているという論文もある中、鶏の飼育羽数を減らず、密飼育防止への積極的な提言はありません。

今回のウェビナーを通じて、鳥インフルエンザ対策は単なる衛生管理の枠を超え、企業の持続可能性と供給網の安定を左右する最重要の経営課題であることが改めて明確になりました。

養鶏農家には補助があったとしても、毎年減っている生産者の中には、小中規模の生産者には大きな打撃となります。一度発生をすると、廃業にもなりかねません。また実際に罹患した鶏を処分しなくてはならない人的リソースがあります。このような方達のメンタリティのケアも重要な課題となるでしょう。