2025年6月20日、ルイス・ボラード氏とエマ・バックグランド氏がOpen Philanthropy farm animal welfare newsletter”Crunch time for Cage-free ~ Despite stepbacks, cage-free is on the retreat”というレポートを公開しました。それを読み、大きな衝撃とまた嬉しさを同時に感じましたので、要点をまとめて皆様に欧米のケージフリーの進展具合を共有させていただきます。

多くの方がご存知のように、100%ケージフリー鶏卵調達に切り替える公約をしているグローバル企業の起源が2025年は集中しています。折り返し地点を迎えた今、世界の食品業界におけるケージフリー卵への移行はかつてないほど大きな注目を集めています。過去10年間にわたり、鶏の飼育環境改善に向けて取り組みを進めてきている企業は数多く存在し、現在、世界中で2,700社を超える企業がケージフリー調達を誓約しています。まさにその「約束」が試される時期となっています。

雌鶏の飼育が大きく変わった過去10年

雌鶏の飼育環境、鶏卵のサプライチェーンにおいて、世界全体での進展は著しいものがあります。アメリカではケージフリー鶏の割合が13%から45%へ、ヨーロッパでは44%から62%へ、イギリスでは50%から82%へと上昇しました。その結果、これまでに3億羽以上の鶏が狭苦しいバッテリーケージの中から解放され、将来的には10億羽規模の影響につながる可能性があると概算しています。

こうした変化を牽引してきたのは、マクドナルド、スターバックス、アマゾン、ゼネラルミルズ、ネスレ、コストコなど、影響力の大きい企業たちです。特にヨーロッパでは、イギリスの大手スーパー10社のうち7社がケージ卵の販売を完全に廃止し、ドイツの多くの主要スーパーマーケットもこれに続いています。企業の姿勢が消費者の購買行動に影響を与え、それがまた市場の方向性を定めるという好循環が生まれつつあります。

一部企業で見られる「後退」と私たちの懸念

もちろん、常に前進してきたわけではありません。課題や懸念もありました。例えばウォルマート、ターゲット、サブウェイ、マリオットなど、当初ケージフリー化を公約していた一部企業が、その方針を撤回・修正、あるいは公表を削除するケースが出てきているのです。後退の理由は「価格」「需要」「供給不足」そして鳥インフルエンザなどがあります。

ただ日本の養鶏業界から聞こえてくる声の中には、「ケージフリーの卵が余ってしまっている」という声もあります。これは日本では卵はいまだに「物価の優等生」というレッテルから離れることができない、当然安い食材であるという意識も理由の一つです。

消費者需要についても同様です。「消費者が望まないから」という言い訳は、企業側の選択次第で変えられるということです。つまり、アマゾンやコストコのようにケージ卵の販売そのものを廃止することを(当然段階的に)、企業が能動的に「方針として掲げ、政策として実行する」方向性を明確するというのは当然市場を大きく変えていくものとなります。消費者は次第にそして自然と代替品に移行するではないでしょうか。

法的保護と政治的動向にも注目が必要

一方で、ケージフリー化の流れに対して政治的な反発も存在します。米国では、州によるケージ卵販売禁止の施行延期や、連邦政府による介入の動きが出てきており、ヨーロッパでも欧州委員会がケージ廃止に関する2023年までの法案提出を見送っています。イギリス政府もまた、方針を明確にしていません。

このような背景の中で、私たちAWCPのようなアニマルウェルフェア、ケージフリー促進する団体の役割は今後ますます重要になります。企業の約束を「公約倒れ」で終わらせないよう、自己研鑽を続け、有効な情報を提供し効果的なダイアログを続けること。そして、消費者とともに企業の透明性と説明責任を求めることが求められます。

日本への示唆と今後の展望

日本ではまだケージフリー卵の導入は黎明期から発展期に移行し、不可逆的な動きになっています。今回の世界的な動きから得られる刺激と教訓が多くあります。グローバル企業が日本市場を含んだ目標を達成できるように協働していくこと、国内企業にも先進事例を示しながら、現実的なステップでの導入支援を行うことが今後の鍵となります。

そしてなんとも重要なことが、現在3%程度しかないケージフリー飼育率を増やしていくことです。そのためには鶏卵業界の皆様との連携も重要になります。そしてケージフリーの生産ができる鶏卵業者と、ケージフリーを求める大型購買者をリンクしていくことで、日本国内のケージフリー鶏卵の市場を拡大し、堅牢なものしていくのです。

結びに代えて

ケージフリー化の道のりは、決して平坦ではありません。しかし、ここまでの10年が証明しているように、確かな変化は現実に起こっています。そしてこれは日本、アジアにも届いております。

今から10年後の2035年、日本も欧米のようなケージフリーの飼育率が顕著に増加しているでしょうか。
そう願って活動を続けて参ります。