2024年7月17日 (水)15:30-17:00開催
PRIジャパン・オフィス、FAIRR、そしてアニマルウェルフェア・コーポレート・パートナーズ(AWCP)が共催するウェビナーが、「アニマル・ウェルフェアー食の安全と企業評価の視点から」と題して開催されました。このウェビナーでは、アニマルウェルフェアと責任ある調達に関する最新の情報と企業の取り組みが紹介され、100名近い方のオンライン参加がありました。
世界で2,500社以上のレストラン、ホテル、食品メーカー、食品製造業、流通業などが、ケージフリーの鶏卵のみを調達する方針を掲げています。これは、家畜に対してアニマルウェルフェアを導入していない場合、多くのリスクが存在し、それが重要な投資リスク要因となっているためです。本ウェビナーでは、その世界的なアニマルウェルフェアの動向を受け、その重要性、世界および日本国内での意識の変化、実際の企業や投資家の取り組みについて、各分野の専門家が集まり情報を共有しました。
当団体からはシニアコーポレートコンサルタントの福田証子が、アニマルウェルフェアとは何かから始め、アニマルウェルフェア(動物福祉)と動物愛護との違いについて説明しました。また、ケージフリー鶏卵を採用しているホテルチェーンや小売チェーンの増加について触れ、企業がアニマルウェルフェアを意識している状況を伝えました。さらに、投資家にとってアニマルウェルフェアがどのようなESG課題として位置づけられるべきかについても問題提起をしました。
FAIRR Initiative(FAIRR:Farm Animal Investment Risk & Return) からはSenior ESG アナリストの 蘭清美さんから、FAIRRの紹介があり、次にマテリアリティ、投資リスクとしてのアニマルウェルフェア、またプロテインプロデューサーインデックスでの日本企業のアニマルウェルフェアの評価、海外企業との比較の説明がありました。FAIRRではデータ、サイエンスに基づいた評価を構築しており、評価のメソドロジーについての解説をいただきました。アニマルウェルフェアは、気候アクションや感染症も関連していることを説明してくれました。
AWCP、FAIRRの発表の後は、りそなアセットマネジメンの松原稔氏、野村アセットマネジメントの河合若葉氏とAWCPより上原まほが参加し、「企業投資の観点からアニマル・ウェルフェアをどう考えるか」と題し、ディスカッションが展開されました。
りそなアセットマネジメント(りそな)の松原氏は信託運用で日本を代表するエキスパートです。りそなのESGは同社のパーパスが基盤にあるということです。パーパスの先には「社会のなかでどうありたいか」という姿を追求し、更にその先に「ありたい姿」がある、そして「ありたい社会」を作るための枠組みがESGであるというとてもわかりやすい解説をいただきました。ESGの中でも、松原さんは特に、過剰漁獲、人権問題、生物多様性など多様な問題のある水産業の責任投資について詳しく、水産資源を水産資本に発想転換をすること、金融機関はそのための支援をしていく必要があると言及しました。また食のリスクとしては、疾病、予防、成長のために使われている抗生剤の過剰投与があり、薬剤耐性を引き起こすことに、日本はグローバルな発想で資源や環境に関わる課題を考える必要があるとの指摘が印象的でした。
野村アセットマネジメントの河合若葉氏は責任投資調査部シニアESGスペシャリストであり、「動物向け薬品」、「レストランの抗生物質」関連の協働エンゲージメントに参加されています。食品関連企業とのエンゲージメントでは雌鶏のケージフリー飼育を普及する目標に言及し、アニマルウェルフェアの取り組みとして、世界的なケージフリー卵の目標を設定することを提案しています。自然資本、社会課題との関係性からも、海外企業にはアニマルウェルフェアを促す株主提案にも賛成をしています。
当団体の上原からは、アニマルウェルフェアは世界的に市民や民間企業主導で変わってきていること、そして企業のガバナンスの課題になってきており、その背景には過密飼育の問題、抗菌剤の問題、鳥インフルなど、人間行為が巡り巡って人間の負の結果として戻ってくる、すべてが繋がっている「ワンヘルス」の概念を指摘しました。そして投資家の皆様に期待することとして、「まずは知っていただくこと」であると強調しました。
PRIジャパン・オフィス実施のウェビナーに関するアンケート結果
満足度について、97%の参加者が満足(3)以上の評価をつけました。アニマルウェルフェアに関する認知度については、「まあまあ熟知している(3)」以上の評価をつけてくれた方が66%以上でした。「熟知している(5)」との回答は6%、また「全く知らない(1)」との回答も6%でした。
アニマルウェルフェアへの取り組みに関する質問には、以下のような様々な回答がありました:
- 「今年度の議決権行使における株主提案で初めて課題として認識した」
- 「ケージフリーの卵を商品開発に取り入れ始めた」
- 「今は特に何もしていないが、食品企業として注意はしている」
- 「現時点では調査・情報収集をしている段階」
- 「課題認識を持ちつつ、真剣に向き合っている」
このように、複数の企業でアニマルウェルフェアを課題として認識し、具体的な取り組みをされている企業、情報収集や調査中で、今後アクションが期待できそうな企業があることがわかります。
ウェビナーに対する感想として、
- 「ESGの中でまだ日本国内に浸透していないテーマ、特に個別テーマについて」
- 「企業価値の向上や投資リターンとの関連について、社会的正義だけでなくステークホルダーへの説明責任という観点からの考えを聞きたい」
- 「実際にアニマルウェルフェアに取り組む企業の話を聞きたい」
- 「ケージの話ばかりで分かりにくかったので、アニマルウェルフェアについて何をすべきか、リスクの観点からも知りたい」
といった意見も寄せられました。
今回は投資家の皆様に情報提供を目的としましたが、活発なディスカッションから学ぶことがたくさんありました。ESG、投資の世界はAWCPスタッフにとっては新しい分野です。
今後、アニマルウェルフェアやケージフリー調達が企業価値の向上にどうつながるかを明確に示すこと、またアニマルウェルフェアの重要性を認識している企業に次のステップを提示していくことが、AWCPの重要な役割になってくると感じています。