Animals in Japanese Society – The case of companion versus farm animals (ICAS Seminar)
日本の動物福祉に見る「ペット」と「家畜」の深刻な二極化
2025年2月20日(木)テンプル大学ジャパンキャンパス 現代アジア研究所 (ICAS)が、「Animals in Japanese Society – The case of companion versus farm animals (ICAS Seminar)」と題し、AWCPの上原まほが畜産動物の福祉の現状、企業の動向などについて話をさせていただきました。
ペット文化については、長年日本のこの分野で研究をされているBarbara Holthus博士(ドイツのトリアー大学で日本学、ハワイ大学マノア校で社会学の2つの博士号(Ph.D.)を取得。2018年よりドイツ日本研究所(DIJ)東京の副所長を務める) が登壇をされました。
最新の国際調査から見えてきたのは、日本における動物の扱いの深刻な二極化です。愛され、家族の一員として大切にされる「ペット」の姿がある一方で、驚くほど劣悪な環境に置かれた「家畜」の現実でした。
15歳未満の子供の数を超えた日本のペット数
この背景には、日本の法律や文化で中心となる考え方が「動物の権利」や「動物福祉」ではなく、人間が動物をかわいがり守るという「愛護(あいご)」という概念にあることが指摘されています。
日本では今、約1,600万匹の犬と猫が飼育されており、15歳未満の子どもの数を超えています。ペットは単なる動物ではなく、「家族の一員」として深く社会に統合されています。
- 社会的な役割: 少子化や孤独感の中で、「子どもの代わり」「家族の代わり」「心の支え」といった重要な感情的な役割を担っています。
- 商業の発展: 「かわいい(kawaii)」文化にも後押しされ、ペットショップ、レンタルサービス、動物カフェといった商業的なインフラが非常に発達しています。
- 法の整備: 近年の動物愛護法の改正でも、子犬・子猫の販売日齢制限やマイクロチップ装着の義務化など、主にペットの環境改善に焦点が当てられています。
愛護活動は活発なものの、小規模なNPOによる救助・譲渡が中心
- 多くの団体が行政による殺処分を防ぐために活動していますが、公的なシェルターではいまだにガスによる殺処分が行われる現実もあります。
- 最も大きな課題は、「譲渡ではなく購入(Adopt, Don’t Shop)」のメッセージが浸透しきっていないことです。なんと、販売される犬の60%は今でもペットショップから購入されています。
- さらに、猿やフェネックなどエキゾチックアニマルの需要も増加しており、違法取引や感染症のリスク、飼育知識の不足が深刻な懸念となっています。
【家畜】1億4000万羽の採卵鶏が直面する劣悪な環境
ペットが手厚く保護される一方で、日本の家畜、特に卵を産む採卵鶏の状況は危機的です。
世界最悪レベルの「バタリーケージ」
- 規模: 日本では、人口とほぼ同数の約1億4000万羽の採卵鶏が飼育されています。
- 問題の核心: 推定95〜99%の鶏が、バタリーケージと呼ばれる従来の狭いケージで一生を過ごしています。このケージは、鶏が羽を広げたり、砂浴びをしたり、巣を作るといった基本的な行動すらできない、B5用紙よりも狭い空間です。これは、EUでは2012年にすでに禁止された飼育方法です。
変化の兆し:大企業が主導する「ケージフリー」への移行
この厳しい現実に変革をもたらしているのは、意外にも消費者の抗議ではなく、企業の調達政策です。環境改善の取り組みは、動物への苦痛を最も大きく軽減できる場所から変えていこうという「効果的な利他主義」の原則に基づき、サプライチェーンをターゲットに進んでいます。
日本の動物福祉は転換期にある
現在、日本の動物福祉は、以下の2つの全く異なるベクトルで進化を始めています。
- ペットの福祉: 社会的な統合と、法改正による環境整備。
- 家畜の福祉: 大手企業によるサプライチェーンの変革。
あなたの身近なスーパーやコンビニに**「ケージフリー卵」**が並んでいるのを見かけたら、それは日本の動物福祉が少しずつ、しかし確実に変わり始めている証拠です。
私たち一人ひとりが、日々の生活の中でどちらの動物の「福祉」に関わっているのか意識することが、より良い未来を作る第一歩になるのではないでしょうか。
